不特定の男女間を電話でつなぐ「ツーショットダイヤル」がNTTのダイヤルQ2から締め出されたにも関わらず、一般回線を使って生きのびたのはコンピューターの〝おかげ〟であった。わずか5年余りの間に全国にはびこってしまった。

最近のコンピューターシステムを使った装置とソフトさえ買えば、とりあえず誰でも簡単に〝業者〟になれるらしい。雑誌に載った広告は、600万円あれば開業できて毎月数100万円の収入が見込めると、その簡便さをうたっている。レンタルシステムなら月々12万円でできるとも。実際、業界団体の試算によれば、プリペイドカードの売り上げだけで年間1,000億円にのぼっているという。

ツーショット型は、従来型のテレクラのように店舗を構える必要がないので、地価の高い都心や盛り場に限定されることもなく、普通のマンションや住宅の一室ででも可能。設置場所に制約を受けにくい。風俗営業のような届出義務もない。実質的には「売春斡旋メディア」として機能しているにも関わらず、売春防止法どころか風営法すら無力なのだそうだ。だから素人が手を染めやすい。

しかし、客（男）が電話しても都合よく女性からの電話（フリーダイヤル）があるとは限らない。そこで業者は、サクラの女性を常時たくさん用意しておく必要がある。これをテレホンレディと称し、レディスコミックなど若い女性向けの雑誌に募集広告があふれることになる。仕事は〝援助交際〟という買春目的の男たちとの電話を介した話相手になるわけで、性風俗業の接待係と大差はない。在宅接客業だ。

電話のつながっている時間が1分単位でカウントされ、その時間が給料の対象になる。募集広告で見ると、「時給」はだいたい一、500円から3千500円くらいが相場のようだ。ボーナスが5万円から10万円。中には時給8千円というのもある。広告の下に18歳未満お断り（高校生もダメ）という意味の断り書きが記されているものの、24時間受け付けます、電話で面接、即日仕事できます、給料週払い、完全コンピューター管理…などの文言が並んでいて、要するに、中学生だろうが高校生だろうが「はい、19歳です」と答えればOKということらしい。

考えてもみられよ。これまで性風俗関係の接客業で、在宅勤務、居住地不問、分刻みの時間給などという形態があったろうか。閑静な住宅地の平和な家庭の勉強部屋で、あるいは自然豊かな田園地帯の農家の自室で、10代の娘たちが電話で〝下心〟満々の男たちを相手に長話に励んでいる図を想像してみられよ。そのうち、相手の誘いに応じれば電話バイトの10倍もの収入が約束されるのである。

このシステムは「売春」の一般化を急速にもたらし、素人と玄人の境界を一挙に消滅させた。デジタル化のもたらす影響は、今後どのような境界（一線）を無化することになるのだろうか。

（塾ジャーナル 1996年11月 掲載）